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新潟地方裁判所 昭和30年(行)4号 判決

原告 小林藤平

被告 田上郷耕地整理組合

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し同人が提供した新潟県南蒲原郡田上村大字原ケ崎新田字天ケ谷内千二十五番田三畝二十八歩に対する換地を交付しなければならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告は昭和二十四年中、耕地整理法に基き設立された被告組合の組合員であつて、被告組合は同年秋耕地整理を起工し翌二十五年春これを完工した上昭和二十七年春換地処分を行つたが、原告は被告組合に加入するに当り請求の趣旨記載の田(以下単に本件農地と略称する。)並びに外に田一町二反六畝十四歩を提供したところ、被告組合は本件農地を除いた外の田についてはこれに相当する換地を交付したが、本件農地についてはこれが換地の交付を脱落しその交付をしない。しかして本件農地は他の者に換地として交付されたが、原告にとつて右は苗代田として欠くことのできないものであり原告が受けた換地には苗代田に適する田がないため原告は農業経営上困窮し目下他よりこれに代わる苗代田を借り受けて稲苗を作つている状態である。かように被告組合は本件農地について換地の交付義務を怠つているからその履行を求める。」と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、本案前の答弁として、「換地処分に関して不服のある者は耕地整理法第六条、第八十八条により地方長官に異議の申立をなすべきであつて、これが手続を経ていない原告の訴は却下さるべきである。」と述べ、更に本案に関する答弁として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、「原告が昭和二十四年中、耕地整理法に基いて設立された被告組合の組合員であること、被告組合が同年秋耕地整理を起工して翌二十五年春これを完工し昭和二十七年春換地処分を行つたことは認めるが、その余の事実は争う。原告主張の本件農地については既にこれに対応する換地を交付済のものである。」と述べた。(立証省略)

理由

原告はその主張の本件農地について被告が原告に対する換地の交付をなすべき義務を怠つているからその義務の履行を求めるというのであるが、耕地整理組合が耕地整理法に基き従前の土地の所有者等に対し換地を交付する関係は公法上のいわゆる権力関係に属するものというべきであるから、右のような関係者より法人たる耕地整理組合に対し換地を求める給付の請求をなし得べき余地はないものというべきであり、又、若し本訴が、耕地整理組合が行政庁としてなす行政処分たる換地処分に関する請求にかかるものとしても、耕地整理法第六十一条第一号、第七十一条によれば、換地の交付は耕地整理組合の総会又はこれに代るべき組合会の表決を経べき事項とされ、換地処分はこれら会議の表決によつて定められるものであり、本件においては原告が被告組合に加入するに当り前記農地並びに外に田一町二反六畝十四歩を提供したところ被告組合は外の田一町二反六畝十四歩についてはこれに相当する換地を交付したが本件農地三畝二十八歩についてはこれを他の者に換地として交付しながら原告に対してその換地の交付を脱落しその交付をしないというのであるから、右はひつきよう換地処分に関する組合の会議の表決を不当違法としその是正を求めるものに帰するものという外はないところ、耕地整理法第八十八条によれば、会議の表決に対しては表決の日より十四日以内に地方長官に異議の申立ができることとされているから、行政事件訴訟特例法第二条により、その但書所定の正当事由ある場合を除き、異議の決定を経た後でなければ、その取消又は変更を求める訴を提起することはできないものであるが、原告がかような地方長官に対する異議の申立の手続を経たこと又は右手続を経ないことにつき正当事由の存したことを認めるに足る資料はない。してみれば、原告の本訴請求は爾余の判断をまつまでもなくいずれにしても不適法なものとしてこれを却下する外はないものといわなければならない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三和田大士 真船孝允 土屋一英)

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